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東京高等裁判所 昭和53年(ネ)3237号 判決 1979年4月18日

控訴人

進藤キミ

被控訴人

進藤文夫

右訴訟代理人

橋本武人

外二名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は「原判決を取り消す。被控訴人は控訴人に対し四四万七六四〇円及びこれに対する昭和五三年一二月一四日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする」との判決を求め、被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。

証拠関係<省略>

理由

一控訴人、被控訴人間の横浜地方裁判所小田原支部昭和四九年(タ)第七号離婚本訴請求事件及び昭和五〇年(タ)第二四号財産分与反訴請求事件につき、昭和五三年三月一六日、控訴人主張のような判決があり、同判決が同月三〇日確定したこと、右判決に基づき控訴人がその主張のような強制執行手続をとつたこと、控訴人が被控訴人より同年四月一四日と同月二六日に各金三〇〇万円の送金を受けたほか、控訴人主張の債権差押取立命令及び供託により少くとも右判決表示の元本の弁済を得たこと、控訴人が右強制執行につき控訴人主張の頃申立の取下をしたことは当事者間に争いがない。

二控訴人の執行費用及びこれに対する遅延損害金の支払請求について。

民事訴訟法上執行費用はその必要なりし部分に限り債務者の負担に帰し、この費用は執行をなすべき本来の請求と同時に取立てるのが原則である(同法第五五四条第一項)が、債権者は、右の同時取立をしない場合、執行費用額の確定決定を求める申立をなし、右決定を得て、これによつて本来の請求とは別に執行費用の取立ができるものと解されるのであつて、いずれにせよ同法上執行費用の取立は右のような方法によるべきであり、被控訴人の支払能力あるにも拘らず上記確定判決表示の義務を任意に履行せず、そのため控訴人が前記強制執行手続をとることを余儀なくされ、その結果控訴人が右手続のため控訴人主張のような費用を支出し、その後にいたつて被控訴人がその義務を履行したとしても、それだからといつて、控訴人において直ちに本訴のような独立の訴をもつて被控訴人に対し右支出費用の償還及びこれに対する遅延損害の支払を求め得べき理由、根拠を認めることはできない。控訴人の右請求は理由がない。

三控訴人の慰藉料及びこれに対する

遅延損害金の支払請求について。

判決によつて確定された給付義務を債務者が任意に履行しない場合、右給付の実現は結局強制執行によるほかはないのであつて、金員の支払を命ずる判決が確定したが、債務者が支払能力あるにも拘らず任意にその義務を履行せず、そのため債権者が強制執行手続をとることを余儀なくされ、その後にいたつて債務者がその義務を履行したからといつて、これをもつて債権者に対する不法行為ということはできないから、被控訴人が支払能力あるにも拘らず上記確定判決表示の義務を任意に履行せず、そのための控訴人が前記強制執行手続をとることを余儀なくされ、その結果控訴人が右手続のため控訴人主張のような精神的負担を被り、その後にいたつて被控訴人がその義務を履行したとしても、被控訴人の不法行為に基づく損害として控訴人において被控訴人に対し右精神的負担の賠償及びこれに対する遅延損害金の支払を求めることはできないといわねばならない。控訴人の右請求は理由がない。

四よつて控訴人の請求をいずれも棄却した原判決は結局相当であつて、本件控訴は理由がないから、これを棄却すべく、控訴費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九五条を適用して、主文のとおり判決する。

(園田治 田畑常彦 丹野益男)

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